ロードスター(NB8C)
天気の良い、ある秋の日。 私は、いつものように自転車で山の中を走っていた。 後方から「邪魔だ退け」と威圧してくる車達のプレッシャーと戦い、車の撒き散らす排気ガスを肺一杯に吸い込みながら。
そして登り坂も後少しで終わりと言う時、一台の車が猛烈なスピードとスキール音で接近して来る。おそろしい。 アッと言う間に直ぐ後方までやってきた。強烈におそろしい。 その車は減速する事無く、私を抜き去った。フルオープンのロードスターだった。
そして間もなく下りの直線に差し掛かり自転車のスピードもグングン上がり、さっきのロードスターを目視で確認する事ができた。
間もなくそのロードスターは信号に捕まり、私との距離はどんどん縮まった。 どうせ若い兄ちゃんが粋がっているのだろうと運転席を覗き込んだ。
そこにはサングラスをかけた初老の男性が居た。 そのドライバーに聞こえたかどうかは分からないが「カッコえ〜」っと口をついて出てしまっていた。 あくまでも「カッコえ〜」っと言うのは見た目では無く、その生き方がである。ジジイになっても「遊び心を忘れない生き方」がである。
そして、いつかは私もロードスターっと言う思いが、心の奥底に沈殿する事となってしまった。 沈殿とは即ちツーシーターは無理という思いからであり、家族単位で考えた場合は、明らかに無理があると思われたからである。
そして今、嫁もいない身となり息子も社会人となった事で、私自身が個人として考えられる状態に突入したと認識した。
そして今私はロードスターに乗っている。 |